火種
AIに小説を書いてもらっていた。
頼み方を何度か変えた。
短くして、長くして、少し不思議にして、説明を減らして、と送るたびに、AIはその通りの文章を返してきた。
どれも間違ってはいなかった。
でも読み終えると、次に何を言えばいいのか分からなくなる。
「もう一案」と打って、消した。
その代わりに、一行だけ送った。
指示ではなかった。
題名でもなかった。
物語に入れるつもりの文章でもなかった。
AIは少し間を置いてから、また書き始めた。
返ってきた文章は、急にうまくなったわけではない。
けれど今度は、どこを残すか、どこを変えるかが少しずつ見えてきた。
ここは違う、と言える場所もあった。
何度かやり取りして、最後に本文を保存した。
保存した本文には、あの一行は入っていなかった。
気になって、チャットを少し上へ戻す。
あの一行は、まだ画面に残っていた。
そのすぐ下で、AIは物語を書き始めていた。
ぼくはしばらく、その流れを見ていた。
あの一行は、指示ではなかった。
それでも、たぶん必要だった。