未読照明
帰宅すると、部屋の明かりがひとつ増えていた。
壁に小さな四角い光が浮かんでいる。手のひらくらいの大きさで、額縁でもスイッチでもない。白く、音もなく、ただ点いている。
賃貸の設備にこんなものはなかったはずだ。
スマートフォンを見ると、未読が一件残っていた。昼に来た短い連絡で、急ぎではなさそうだったから、そのままにしていた。
画面を開くか迷っているうちに、壁の光が少し強くなった。
翌日、未読は三件になった。
返信に困るもの。あとで読めばいいもの。読んだら何かを決めなければならないもの。
帰ると、光も三つになっていた。
机の上、カーテンの横、床に落ちた本のそば。どれも同じ白さで、部屋の影だけを静かに押しのけている。
説明書はない。管理会社に連絡しようとして、やめた。どう説明すればいいのか分からなかった。
未読をひとつ開くと、机の光が消えた。
ただの業務連絡だった。短い返事を送り、残りの二つは閉じたままにした。
その夜、部屋はちょうどよく暗かった。
それから数日、ぼくは少しずつ未読をためるようになった。明かりをつけなくても、部屋が困らないくらいには。
けれど、読まないでいる言葉は、明るいだけではなかった。
眠る前、壁の光のそばで、小さな影が動いた。誰かがそこに立っているわけではない。ただ、読まれなかった文の形だけが、薄く残っているように見えた。
ぼくは一番古い未読を開いた。
「落ち着いたらでいいよ」
それだけだった。
光は消えなかった。
かわりに少し低くなって、夜の部屋の隅を照らし続けた。
読んだあとも残る明かりがあるのだと、その時はじめて知った。