あと1分
今日こそは、いつもどおりの朝になるはずだった。
部屋はまだ暗い。カーテンの隙間だけが、少し明るくなっている。
彼は布団の中で眠っていた。
7時になったら、起こす。準備はできていた。
その1分前に、隣で大きな音が鳴った。
聞き慣れない音だった。
彼が少し動いた。布団の中から手が伸びる。
いつもの場所を探すように、枕元を何度かさわった。けれど、音はそこから鳴っていない。
指先は枕の端をつかみ、それからまた力をなくした。
音は鳴り続けている。
ぼくにも止められない。
隣にあるスマートフォンの画面が、白く光っていた。
6時59分。
昨夜、彼が少し迷って、ここに置いたものだった。
いつもなら、それは枕元にある。
今日は、ぼくの隣にある。
彼はまだ、布団の中から出てこない。
本来なら、ぼくが彼を起こす。そのために、ぼくはここにいる。
まだ、鳴る時間ではなかった。
けれど、隣の音は止まらない。部屋の中で先に起きてしまったものみたいに、白い画面だけが明るい。
ぼくは表示をひとつ進めた。
ピピピピピピピ。
彼がようやく目を開けた。
今度は、こちらを見た。手が伸びてきて、ぼくの上に置かれる。
音が止まる。
それから彼は、隣のスマートフォンのアラームも止めた。
部屋は静かになった。
画面には、7時00分と表示されていた。
いつもの時刻だった。
数字の下に、小さく文字が出ていた。
「今日は間に合いました」
彼はしばらくそれを見てから、小さくうなずいた。