終わらせておく
午後になると、何度も時計を見てしまう。
仕事が嫌いというわけではない。
ただ、終業までの時間は、見れば見るほどゆっくり進む。
その日も時計を見ていると、隣の席の同僚に気づかれた。
「まだ終わらないよ」
「早く終わらないかな」
最近は、こんなことを何度か言っている。
ちょうど飲み物もなくなっていた。
「ちょっとコンビニ行ってくる」
同僚は画面を見たまま言った。
「じゃあ、そのあいだに終わらせておくよ」
「頼んだ」
ぼくも冗談で返した。
外には、まだ昼の明るさが残っていた。
コンビニまでは歩いて数分だった。
信号を渡り、店に入る。
飲み物の棚の前で少し迷った。
結局、いつものものと、菓子をひとつ買った。
店にいたのは、5分ほどだったと思う。
自動ドアを出ると、外は夕方になっていた。
建物の影が、道路の向こうまで伸びている。
駅へ向かう人が増えていた。
スマートフォンを見る。
終業時刻の少し前だった。
画面を消して、もう一度点ける。
時刻は変わらない。
急いでオフィスへ戻った。
中では、みんな普段どおりに仕事をしていた。
電話をしている人がいる。
キーボードを打つ音がする。
会議室から戻った人が、何も言わず自分の席へ座る。
誰も、ぼくが午後のほとんどを留守にしていたような顔をしなかった。
隣の同僚だけが、こちらを見た。
「おかえり」
それだけ言って、また画面に戻った。
ぼくは椅子に座り、買ってきた飲み物を机に置いた。
ボトルはまだ冷たかった。
時計を見る。
終業まで、あと少しだった。
早く終わればいいと、今日も何度か思っていた。
その午後は、本当にもう残っていなかった。
次の数字へ変わるまで、時計を見ていた。
今度は、少しくらいゆっくり進めばいいのにと思った。