DREAM ARCHIVE

まっすぐ帰る日

帰宅して、マンションのエレベーターに乗った。

自分の階のボタンを押す。

途中で、エレベーターが停まった。

押していない階だった。

扉が開く。

誰も乗ってこない。

故障かと思って「閉」のボタンを押した。けれど、扉は閉まらなかった。

不思議に思って少し身を乗り出す。廊下に人影はなく、その端の向こうに夕焼けが見えた。

雨上がりの雲が、端だけ明るくなっている。

顔を戻すと、扉は静かに閉まった。

別の日、また押していない階に停まった。

開いた扉の向こうから、ピアノの音が聞こえた。どこかの部屋で、同じところを何度も練習している。

知っている曲だった。

曲名を思い出す前に扉が閉まり、エレベーターは動き出した。

それからも、ときどき普段は降りない階に停まった。

風鈴が鳴っている階。

廊下の端の向こうに、大きな月が見える階。

夕食の匂いがして、何を食べようか決まる階。

最初のうちは少し怖かった。

けれど、何度か続くうちに、扉が開くのを待つようになった。

その日は、帰りが遅くなった。

エレベーターに乗り、自分の階を押す。

今日はどこに停まるだろうと思ったが、数字はひとつずつ通り過ぎていった。

少しだけ残念に思う。

エレベーターはどこにも寄らず、まっすぐ自分の階へ着いた。

扉が開き、廊下へ出る。

ぼくの部屋の前に、しばらく会っていなかった人が立っていた。

片手に小さな紙袋を持っている。

「驚かせようと思って」

その人はそう言って、少し笑った。

ぼくも笑った。

今日は、ここでよかったらしい。