同じ傘
雨が降っていた。
店の前の傘立てに、ビニール傘を入れた。
透明な傘だった。
持ち手は黒い。
目印はないと思っていた。
買い物を済ませて外へ出ると、傘立てには同じような傘が増えていた。
透明な傘が、同じ高さで何本も立っている。
どれも黒い持ち手で、濡れたビニールが同じように光っていた。
一本を取ろうとして、手が止まった。
持ち手の先が削れた傘。
先端に古いテープが巻かれた傘。
骨組みの一本だけ、少し外へ開いた傘。
内側に大きな水滴を残した傘。
置いたときには、どれもただの透明な傘だった。
店の中から人が出てきた。
その人は迷わず一本を取る。
開く前に軽く振ると、水滴が入口のタイルに落ちた。
その人が出ていったあと、傘立ての隙間が少し変わった。
それで、朝のことを思い出した。
駅の階段で、傘の持ち手を壁に当てた。
軽い音がして、根元に白い線がついたはずだった。
一本を手に取る。
持ち手の根元に、薄い線があった。
握ると、親指の当たるところだけ少しざらついた。
間違いなかった。
ぼくは傘を差して、店を出た。
雨は少し弱くなっていた。
振り返ると、傘立てにはまだ透明な傘が何本も並んでいる。
けれど、同じ傘は一本も残っていなかった。